私の大好きな建築を紹介するシリーズ、第4回となった今回は、吉田五十八設計の「大和文華館」を紹介します。(第3回の記事はコチラ)
私が思う建築の面白さのひとつに「折衷」があります。新旧の「折衷」や和洋の「折衷」、外観では高低も「折衷」ですし、構造・材料ではコンクリートと鉄・木を組合せるのも「折衷」で、この「折衷」が建築の魅力のひとつです。
今回ご紹介する「大和文華館」は、たくさんの「折衷」を味わえる建築です。訪れたのは4年前。写真をみながら、記憶を呼び覚ましながら、紹介していきます。まず、私が感じたこの建築の特徴はこの2点です。
- 建物の印象が全く異なる正面と背面の外観
- 外観は軽く、内部空間は重く
以下に詳しく解説していきます。
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この記事の目次
- 第4回 大好きな建築 吉田五十八「大和文華館」
- この建築の特徴
- 建物の印象が全く異なる正面と背面の外観
- 外観は軽く、内部空間は重く
- 最後に
1.第4回 大好きな建築 吉田五十八「大和文華館」
建築物概要
設計 吉田五十八
竣工 1960年(2010年改修)
建設地 奈良県奈良市学園南1-11-6
構造 RC造地上2階地下1階建て
延床面積 2,344㎡
用途 美術館
設計者の吉田五十八さんは、没後、その名も「吉田五十八賞」が設立されていたほど、建築界に貢献された方で文化勲章も受賞されています。「吉田五十八賞」、受賞者は清家清さん、内井昭三さん、谷口吉生さん、安藤忠雄さんなど、大学建築学科の講義で習う重鎮ばかり。この賞の先見性を伺わせますよね。
2.この建築の特徴
私が感じたこの建築の特徴は、この2点です。
- 建物の印象が全く異なる正面と背面の外観
- 外観は軽く、内部空間は重く
それぞれについて、解説してみたいと思います。
3.建物の印象が全く異なる正面と背面の外観
入口から建物までは登り坂で、登りきると突如建物が、白と青の壁が現れます。正面側は地上1階で間口が広く、外壁の白と青、空の白と青が一体的にみえます。
でも、このなまこ壁(お城でよく観る壁です)とよばれる壁には違和感が(笑)。この違和感は狙い?なのか、逆になまこ壁の存在感が際立ってみえます。
これぞ、空と建物の「折衷」です。
正面から背面にまわると、この建築はその様相を変えていきます。1階は回廊式ピロティとなり、なまこ壁は2階に。宙に浮いた?戦艦っぽくない?(笑)このピロティは、このシリーズでなんども名前がでてくるコルビュジェさんが提唱した近代建築の5原則のうちのひとつ。これで、江戸時代のなまこ壁と近代建築のピロティの「折衷」が完了です。
4.外観は軽く、内部空間は重く
外部を2周してから、ようやく内に入ました。玄関から展示室に向かうロビーは、床には石を使い、窓の内側には障子を入れて光をうまく調節して、威厳のある空間に仕上げています。外観とは一転した「重」。
ここで、相反する「軽」と「重」の折衷に見事成功しています。
ロビーからは一直線に中庭がみえ、その先には外部がみえるようになっています。美術館という閉鎖空間になりやすい場所に、視覚的に開放感を与える工夫、うまいですね。
5.最後に
最後にもうひとつ建物を紹介。入口付近に移築されている文華ホールは、東京駅の設計で知られる辰野金吾さんの作品です。こちらも外観がとても特徴的ですので、ぜひ一緒に楽しんでください。
私がみた吉田五十八さんのそのほかの作品には、成田山新勝寺本堂(千葉県成田市)、五島美術館(東京都世田谷区)があります。そちらもオススメです。