建築を仕事にしていることもあり、美術館、博物館巡りは私の趣味のひとつです。これまでに全国70ヶ所程度を巡っています。私の大好きな建築を紹介するシリーズの第2回はその中から、坂倉準三さん設計の「旧神奈川県立近代美術館」を紹介します。
この建築の特徴は、この2つでしょう。
- 池から延びる?鉄骨の柱
- この規模で?正面に階段
以下に、「旧神奈川県立近代美術館」をもう少し詳しく紹介していきます。
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この記事の目次
- 第2回 大好きな建築 坂倉準三「旧神奈川県立近代美術館」
- この建築物の特徴
- 建築を鑑賞する時の注目点
- 最後に
1.第2回 大好きな建築 坂倉準三「旧神奈川県立近代美術館」
日本のモダニズム建築の代表として、すでに知っておられる方も多いと思います。簡単に建築物概要を紹介します。
建築物概要
設計者 坂倉準三
竣工 1951年11月
建設地 神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-53
構造 鉄骨造2階建て
延床面積 1575㎡
用途 近代美術専門の美術館
2016年3月 閉館
2019年6月 鎌倉文華館として再オープン
2.この建築物の特徴
この建築の特徴は、いろいろな書籍や雑誌、紹介記事などでもたくさん紹介されています。ただ、あえて書きます。やはり、この2点です。
- 池から延びる?鉄骨の柱
- この規模で?正面に階段
池から延びる?鉄骨の柱
建物1階東面の鉄骨柱6本は池の中に束石を設け、なんとそこから立てています。さらに、1階東面はすべてテラス、テラス上部の2階に喫茶を配置し、きっちりと建物と水との一体感を演出しています。
塗装のみで仕上げなしの鉄骨柱を池から立ててしまうなんて、凡人建築士は考えません。えっ、錆びないの?と萎縮してしまうだけです(笑)。私が初めてこの建物を書籍でみた時の感想は、とても失礼ですが「サボア邸に似てない?」でした。
書籍を読みすすめ、坂倉さんがコルビュジェのお弟子さんであることを知り、これまた失礼ですが「やっぱりな」と思ったのを覚えています。
この規模で?正面に階段
凡人建築士なら、この規模であれば、部屋数や居室面積をどう増やすかを考えるはずです。でも、坂倉さんは正面には階段、建物内部には吹抜けの中庭を設けています。そして、この2つと池から延びる鉄骨柱が、この建物の象徴になっています。
この建物の用途は近代美術専門の美術館です。展示する作品と同様に建物自体も美術作品というコンセプトもあったのではないでしょうか。
3.建築を鑑賞する時の注目点
私は美術館や博物館を鑑賞する時、この2点に注目しています。
- 動線計画
- 狭い空間の有効利用方法
私は大きい建築物や住宅、店舗などの動線計画にはあまり興味はありません。それは、ある程度、決まってしまっていると思うからです。ただ、小さい建築物、特に小さい美術館や博物館の動線計画となると話は別です。興味津々です。なぜか?それはここに建築家の腕が集約されてくるからです。
狭い美術館では、いかにして展示する作品にあわせた見せ方を演出できるか、それが動線計画にかかってきます。また、演出するためには、当然、作品にあわせた空間のサイズ感があり、狭い空間を有効利用する必要がでてきます。
そこに設計者の創意工夫が必ずあって、そこを感じるのをいつも楽しみにしています。この2点を満足させてくれる建築に出会うと鳥肌が立ちます。
4.最後に
第1回で紹介した前川國男さんの「自邸」では、動線を省略するという動線計画をし、切妻屋根の形状を有効利用、空間を広くみせるという演出に鳥肌がたちました。今回の「旧神奈川県立近代美術館」は、この規模で正面に階段、室内には中庭を持ってくる大胆な動線計画に驚きました。どちらも狭い空間をどう攻略するか練りに練られた計画で、やはりおもしろい。
まだまだ、鳥肌物件はたくさんあります。また次回に。